『閃光のハサウェイ』原作小説と映画の違い|改変ポイントを徹底比較

『閃光のハサウェイ』原作小説と映画の根本的な違い

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』は、富野由悠季による小説作品(1989-1990年刊行)を原作とする劇場版アニメーション3部作です。しかし、原作小説と映画版では、設定や描写において重要な違いが存在します。

『逆襲のシャア』との接続の違い

最も大きな違いは、どの「逆襲のシャア」に続く物語なのかという点です。

原作小説は、富野由悠季による小説版『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』の続編として書かれています。この小説版では、ハサウェイが想いを寄せていたクェス・パラヤを自らの手で撃墜してしまうという衝撃的な展開があり、このトラウマがハサウェイをテロリスト「マフティー」へと走らせる最大の動機となっています。

一方、映画版は1988年公開の劇場アニメ『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の正統続編として制作されており、劇場版の設定に準拠しています。劇場版ではクェスはチェーン・アギに殺害されており、ハサウェイが直接クェスを殺したわけではありません。この設定変更により、ハサウェイの心理描写や動機付けにも微妙な違いが生まれています。

映画版における6つの主要な改変ポイント

1. シャトルに接近するハイジャック犯の機体

物語冒頭、ハサウェイらが搭乗するシャトルがハイジャックされるシーンで、犯人たちがシャトルに接近する際の機体が異なります。

  • 原作小説:MS運搬用の支援メカ「ベースジャバー」で接近
  • 映画版:『機動戦士Zガンダム』に登場した可変MA「ギャプラン」の飛行形態で接近

ギャプランは宇宙空間での運用を目的として設計された機体ですが、高高度での運用も可能という設定があり、『Zガンダム』でも高高度で使用される場面がありました。大気圏内用のブースターを装着したレアな姿として、ファンにとってはうれしいサプライズとなりました。

2. ギギとハイジャック犯とのやり取り

ハイジャック犯が乗客を確認する際、ギギが「マフティー・ナビーユ・エリン」という名前を揶揄する場面があります。

  • 原作小説:この会話はケネスとの会話で交わされる
  • 映画版:ハイジャック犯との直接のやり取りとして描かれる

この変更により、ギギがハイジャック犯が偽物であることを早々に感づいていたことが強調され、後のハサウェイの行動を促すきっかけとなっています。また、ハサウェイとギギがマフティーについて話す場面の布石にもなっています。

3. ハサウェイとケネスのハイジャック犯との戦闘

ギギの叫びをきっかけに、ハサウェイがハイジャック犯と戦う場面でも大きな違いがあります。

  • 原作小説:ハサウェイが一人でハイジャック犯を全員無力化。ケネスは全てが済んでから到着し、拘束を外せないままハサウェイを追ってくる
  • 映画版:ハサウェイは複数の犯人を倒すが、最後の一人に窮地に立たされ、マシンガンを手にしたケネスに助けられる

また、「失敗したらどうするつもりだったんだ?」というケネスの問いに対する返答も変更されています。

  • 原作小説:「どうもしない、死ぬだけだ」と応える
  • 映画版:「分からない」と応える

この変更により、ハサウェイの衝動的な行動と、後に展開していくケネスとの関係性の始まりがより強調されています。

4. ハサウェイの内面描写とアクシズの光景

ベッドに寝そべるハサウェイが、答えのない問いを虚空につぶやいた時、かつて見た落下するアクシズを押し返そうとするνガンダムから緑色の輝きが広がっていく光景(アクシズ・ショック)を思い浮かべる場面があります。

この場面は原作小説には一切登場しない、映画オリジナルの演出です。

ハサウェイ自身、マフティーでの活動が現在の社会構造を変革するには仕方がないと思う反面、その行いは決して正しくはないという想いがせめぎ合っています。かつてシャアの理想を知り、アムロの純真さに触れたハサウェイの複雑な心境が表現されている場面です。

5. ペーネロペーの設定変更

ケネスが準備した新型MS「ペーネロペー」の設定にも違いがあります。

  • 原作小説:ペーネロペーはガンダムタイプではなく、「その影響が見られる高性能MS」として扱われる
  • 映画版:ケネスが「自分が準備したガンダム」と明言

小説発刊後に作られた設定で「オデュッセウスガンダムという機体にフライトユニットを装着した機体」がペーネロペーと説明されたため、映画では正式に「ガンダム」として扱われています。

また、ケネスがレーン・エイムに対し「ハサウェイにペーネロペーを任せるぞ!」と叱咤する場面も映画オリジナルで、レーンが自信家であることを強調し、クライマックスでのΞガンダムとの対決シーンの布石となっています。

6. アムロ・レイとクェス・パラヤの幻影

映画劇中では、ハサウェイがアムロ・レイとクェス・パラヤの声や姿を幻聴・幻視する場面が多々描かれています。

  • ギギが「やっちゃいなよ!そんな偽物なんか!」と叫ぶ場面で、同じセリフを叫ぶクェスの声が響く
  • ギギがケネスに走っていく姿に、クェスがシャアの下へ走っていく姿を重ね合わせる
  • Ξガンダムに搭乗し死を意識するハサウェイに、アムロが「身構えているうちは死神はやってこないものだ」と語りかける

これらの場面は原作小説にはほとんど登場しません。唯一アムロのセリフが登場するものの、ハサウェイの思考の一部として扱われるのみです。

『逆襲のシャア』とのつながりをより強く感じさせ、ハサウェイの心中でアムロとクェスの存在が未だ大きなものであることを強調する、映画版ならではの演出といえます。

ギギの名台詞も映画オリジナル

多くのファンの心に残った、ギギの名台詞「やっちゃいなよ、そんな偽物なんか!」も、実は原作小説にはないセリフです。映画版のために新たに書き起こされたこのセリフが、作品を象徴する名シーンを生み出しました。

富野由悠季の意図と映画版の方向性

原作者である富野由悠季は劇場版の制作に直接関わっていませんが、プロデューサーの小形尚弘によれば、制作当初に三角関係をテーマとする韓国映画のメディアを渡されたとのことです。また、完成したものを観た後に「映画としてもっと構成を考えてはどうか」とアドバイスを送ったそうです。

富野は2002年のインタビューで、小説『機動戦士ガンダム ハイ・ストリーマー』について「『閃光のハサウェイ』に対して繋がりが無い物語として執筆した」と述べており、自身の作品に対して複数の解釈や展開を認める柔軟な姿勢を示しています。

『キルケーの魔女』はさらに原作と異なる展開に

2026年1月30日に公開された第2部『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ キルケーの魔女』について、スタッフトークショーで「3部作の中で原作小説とは最も異なるストーリー」であると発表されています。

第1部で描かれた改変は、映画としての視覚的な演出やキャラクターの心理描写を強化するためのものでしたが、第2部ではストーリー展開そのものに大きな変更が加えられている可能性があります。原作ファンにとっては、新たな「閃光のハサウェイ」の物語が紡がれていくことになります。

まとめ:原作と映画、それぞれの魅力

原作小説と映画版の違いは、単なる「改変」ではなく、それぞれのメディアの特性を活かした「解釈」といえます。原作小説は富野由悠季の文章による緻密な心理描写が魅力であり、映画版は映像と音楽による圧倒的な没入感が魅力です。

原作発刊から約30年を経てアニメ化された本作は、ハサウェイ、ギギ、ケネスの3人の複雑な関係性を繊細に描き、迫力の戦闘シーンで正統派「ガンダム」の魅力を存分に見せてくれます。

原作小説を読んだ上で映画を観る、あるいは映画を観た後に原作小説を読むことで、より深く「閃光のハサウェイ」の世界を楽しむことができるでしょう。