2026年1月16日、ついに日本でも公開された『28年後… 白骨の神殿』。前作『28年後…』の衝撃的なラストから直接続く本作は、シリーズ史上最も残虐で、それでいて最も美しい作品に仕上がっていた。

正直に言うと、僕は前作を観た時点で「これ以上どうやって恐怖を更新するんだろう」と思っていた。走る感染者、iPhone撮影による生々しい映像、終末世界のリアリティ。『28日後…』から始まったこのシリーズは、ゾンビ映画というジャンルに革命を起こし続けてきた。
しかし『白骨の神殿』は、僕の予想を完全に裏切ってきた。良い意味で。
目次
感染者より恐ろしい存在が現れる
前作のラストで感染者に襲われかけたスパイク少年は、全員金髪のカルト集団「ジミーズ」に救われていた。しかし、それは救済などではなかった。彼を待っていたのは、感染者よりもはるかに恐ろしい「人間」たちだった。

ジミー・クリスタル(ジャック・オコンネル)率いるこのカルト集団は、悪魔の名の下に残虐行為を正当化する鬼畜たち。感染者と違って言葉は通じるはずなのに、常識も倫理もまるで通用しない。この「人間なのに人間じゃない」恐ろしさが、本作の核心だ。
ジャック・オコンネルの演技が本当に素晴らしい。『罪人たち』でも見せた悪夢的な笑みで、観客をゾッとさせる。彼は自らを「覇王の息子」と名乗り、信仰めいた言葉を振りかざしながら、手下たちの残虐行為を正当化していく。そこには感染者のような衝動はない。むしろ冷静で、計算され、言葉によって共有される悪だ。
レイフ・ファインズという希望の存在
この地獄のような世界で、たった一人「善」を信じ続ける人物がいる。医師イアン・ケルソン(レイフ・ファインズ)だ。

前作で「メメント・モリ(死を想え)」と優しく説いたケルソンは、本作で完全に物語の中心に躍り出る。彼は無神論者でありながら、善そのものを信じ続けている。文明が崩壊した世界で、亡き人を弔う白骨の神殿に暮らしながら、旧世界の性善説をたった一人で護り続ける存在だ。
レイフ・ファインズはこの世のものならぬ名優だと改めて思う。川を見つめて座るときの肩の落とし方ひとつで、深い哀愁が真実味をもって伝わってくる。彼がユーモラスである瞬間は爆発的に可笑しく、悲しい瞬間は耐えがたいほど悲劇的に見える。
そして最終的には、史上最高のアイアン・メイデンのミュージックビデオともいえるシーンへと昇華される。BGMに使われている往年のブリティッシュロックの背徳部分がマッチしていて、同世代おじさんとしてはシビれた。
アルファ感染者サムソンとの関係性

ケルソンが試みるのは、極めて凶暴な感染者の個体、いわゆる「アルファ」であるサムソン(チ・ルイス=パリー)を、暴力ではなく「治療」によって鎮めること。これは単なる医学的挑戦ではない。奇跡でも、祈りでもなく、人間の手によって人間性を取り戻そうとする、この劇中世界において痛ましいほどに尊い試みだ。
チ・ルイス=パリーの演技も目覚ましい。前作での怒りに満ちた怪物像から、変化し続けるゾンビをより繊細かつ魅力的に表現するアプローチへと見事に移行している。彼はケルソンのカリスマ的な共感力を投影するための単なるキャンバスではない。2人の関係には、どちらの立場から見ても語るべき物語があり、それがセリフに頼らない演出によって的確に伝えられている。
ちなみにサムソンの特殊メイクは7人掛かりで8時間もかかったらしい。その労力に見合うだけの存在感を放っている。
ニア・ダコスタ監督の手腕

本作でメガホンを取ったのは、『キャンディマン』を甦らせた若きニア・ダコスタ。ダニー・ボイルからバトンを受け取った彼女は、シリーズに内在していた興味深い要素を引き出して見事に展開させている。
前作のハイテンション節とは一味違い、舞台をあの広大な森に限定した上で、ジミー一味のゾンビ以上におぞましい残虐性と悪魔的思考と絶対服従をじっくり描き出す。
「本作のホラー要素は何段階にも分かれている」と、ダコスタ監督は語っている。「ジャンプスケアもあるし、アクションホラーもあれば、正体不明のジミーズという心理的ホラーもある。流血や暴力といった直接的なホラーもあって、心を揺さぶる角度がどれも違う。その一つ一つを的確な場所に配置して、確実に作用させるように注力した」
前作で大きな話題を呼んだiPhone撮影による野生的な映像演出もきちんと踏襲しながら、ゴア描写はより過激化。スナッフめいたハードコア描写も噴散する。R15+指定も納得の残虐さだ。
驚くほど笑える瞬間も
意外かもしれないが、本作には驚くほど笑える場面がある。静かな会話の最中に火だるまの男が突入してきたり、朝の髭剃りを鹿の頭が妨害したりと、ダコスタ監督はダークなコメディのタイミングを完璧に操ってみせる。
グロテスクで笑える独特の空気感があり、その不条理さこそが作品を成り立たせているといえるレベルに達している。ゾンビという存在の鋭い風刺を成立させるには、それに拮抗する暗いユーモアが必要なのだ。そうして初めて、細部に惑わされずテーマ全体を見渡せる距離が生まれる。
マッチカットという映像詩

序盤にひとつ、これから先に展開されるものへの信頼を一気に高めてくれた瞬間があった。それは、とあるマッチカットだ。
マッチカットとは、異なる2つの映像を、形状や動きの方向性といった共通点で結びつけ、組み合わせによって新たな意味を生み出す編集技法。最も有名な例はおそらく『2001年宇宙の旅』における、骨が人工衛星へと変わるカットだろう。
『白骨の神殿』では、荒廃した都市の景観と、タイトルにもなっている神殿の尖塔群とが対比される。遠景に映し出される都市は、破壊され、燻り、死に絶えている。それは失われた文明を想起させる光景だ。マッチカットの後半に現れるのが白骨の神殿であり、摩天楼と同様の配置でそびえ立ちながらも、こちらは輝き、細部に至るまで丹念に手入れされている。
滅び去った古い文明が、ケルソンの孤独で気の遠くなるような作業によって築かれた、別の文明へと置き換えられていく。この一連のビジュアルは、これから見ることになる映画の本質をすべて物語っている。こうした瞬間こそが、良い映画を偉大な映画へと押し上げるのだ。
キリアン・マーフィの復帰

そしてシリーズファンにとって最大のサプライズ。シリーズ第1作『28日後…』の主人公ジムを演じたキリアン・マーフィが、約24年ぶりに同役でシリーズに復帰した。
彼がどのような形で登場するかはネタバレになるので控えるが、次に繋がる重要な布石であることは間違いない。すでに続編となる3作目の製作も決定済みで、期待は高まるばかりだ。
前作は必見、そして覚悟を
副題が付されていることからも分かるように、『28年後… 白骨の神殿』は前作に対する補完的な一編だ。世界観の説明は全くないので、前作は必ず鑑賞しておいた方がいい。
本作は明らかに物語の中盤に位置づけられる一章であり、始まりでも終わりでもない。しかし同時に、この映画は単体として成立しようともしている。
これは、良くも悪くも明確に「フランチャイズ作品」の領域へ踏み込んだといえる。つまり、各作品が前作に依拠し、次作によって初めて全体像が完成するといった構造の中に置かれている。これは果敢な選択であり、制作陣はすでにその道を進む覚悟を決めている。
まとめ:地獄の中に見つける美しさ
神は沈黙し、奇跡も起こらない。それでもなお、善を信じ、行為を重ね、誰かに託されていく人間性だけが、神話として残されていく。『28年後… 白骨の神殿』は、救いなき時代に生まれた、極めて残酷で、人間臭く、そして歪な創作神話なのかもしれない。
悪魔崇拝者ジミーと、神ではなく人の善を信じて積み上げる医師ケルソン。本作は鏡像的に配置された二者の狭間を揺れ動くようにして進み、やがて「誰がどう生き延びるか」ではなく、「何が人間として残されるのか」という地点へとたどり着く。
シリーズ史上最も残虐で、それでいて最も美しい作品。ここまで過酷な新境地を、誰が想像できたものか。劇場でリアルタイムに体験するべき一作だ。
『28年後… 白骨の神殿』
2026年製作/109分/R15+/イギリス・アメリカ合作
監督:ニア・ダコスタ
脚本:アレックス・ガーランド
出演:アルフィー・ウィリアムズ、ジャック・オコンネル、レイフ・ファインズ、チ・ルイス=パリー、キリアン・マーフィ
